“ゆっくり走って勝つ”レーシングドライバー澤圭太選手 前編

「カーレース」と聞くと、どのようなイメージが挙がるでしょう?
スピード勝負、カッコいい車、危険なスポーツ、といったところでしょうか。
レース中のコックピット内を想像してみてください。
幸福感、怒り、喜び、痛み、恐怖、不安という、ありとあらゆる感情を感じるでしょう。

その中で、相手より0.001秒でも速くゴールラインを切るために、戦術を考え、相手との駆け引きを行う、とても戦術的なスポーツなのです。
今回インタビューさせていただいたのは、プロレーシングドライバーの澤圭太選手。

澤選手は、レーシングドライバーとして公式戦 202戦、表彰台獲得 80 回目(獲得率 39.6%。優勝回数 22 回(優勝率 10.9%)(2020年12月現在)と驚異の結果を誇る「勝ちレーサー」です。また、ご自身でカーレース(アマチュア向けモータースポーツイベント事業)も行うなど、経営者としての顔もあります。今回はそんな澤選手に、レースや仕事についての考え方について伺ってきました。

<プロフィール>
澤圭太。千葉県出身。プロレーシングドライバー。1998年に4輪レースデビューをする。
2002年から全日本GT選手権(現SUPER GT)に参戦し、2003年にはGT300クラスで2勝を挙げてシリーズ2位を獲得した。
2016年にはアジアン・ル・マン・シリーズのGTクラスにてシリーズチャンピオンを獲得。
翌年からFIA 世界耐久選手権のLM-GTE Amクラスへフル参戦し開幕戦では初優勝を飾る。2017WEC 1勝含むランク2位、公式戦202戦(通算22勝、表彰台獲得約40%)。
マカオGT優勝、Le Mans24hには 3回出場。
2009年には、アマチュア向けのサーキットレッスン「ワンスマ」を設立、年間80以上の公募イベントを主催する。

最重要項目は「速度」ではない

意外かもしれませんが、カーレースにおいて「速度」は一番の重要項目ではないのです。

もちろん、トップスピードが速いに越したことはありません。しかしそれよりも、よく止まり、よく曲がれる車の方が、レース全体で見ると速くゴールすることがあります。

レースでの「1周の速さ」は、様々な要素が複雑に絡み合っているのです。

実際の競技となると、トップスピードが280km出る車と、180kmしか出ない車は一緒には走れません(一緒に走行は可能だが、クラスが違う車両同士が同じコースを共有することは不可)。ですが、マックス280km出るけど、1周を2分で帰ってくる車もありますし、トップスピードが180kmいかないような車でも2分で帰ってくるようなこともあります。それぞれの車は、コースの内での「速い場面」が違うということです。

しかし結果としては、トップスピードが280km出る車と、180kmしか出ない車の1周のタイムは同じという現象が起きます。「一つの車で速さを出すためにどうしたらいいか」ということは、それぞれの車で変わって来るんです。その中で、「自分が乗っている車のこと理解し、正しい運転をする」ことが一番大切なのです。

コックピット内のリアル

コックピット内で感じるのは、苦しいことの方が多いですね。走っている最中に快感を感じることなんて滅多にありません。暑いし、疲れるし、汗もすごくかく中で、瞬間での正しい判断力を常に求められます。そして、ミスをすることは絶対に許されません。コックピット内のレーサーはとても緻密で精度の高い作業をしています。常にベストの選択をし、絶対にミスをしないというところを継続的にできないと、勝つことは疎か、命を失う危険性すらあります。レースでは、ミスを最小限に留めること、が良い結果をもたらしてくれます。レースシングドライバーをしていると「何km/hくらいで走るんですか?」と必ず聞かれるのですが、自分としては、何km/h出ているかについて気にすることはありません。僕が気にしているのは、「全体でのタイムをどれだけ短くできるか」です。

具体的に説明すると、タイムを出すために何km/hで走るか、ではなく、どれだけ1周の間にアクセルを踏んでいる時間を増やせるか、が良いタイムを出すことに繫がります。いかにブレーキを短い時間で止め、早く向きを変え、どのタイミングでアクセルを踏むのか、ということです。レースは、「自分が乗っている車で勝つために、何をするのか」を考えるスポーツなのです。

最高の準備をして、環境に順応する

走る時に一番大切なのは、コンディションです。車がしっかりと走れる状態であること、その車に乗る人間がしっかりとした精神状態であること、レース場が走れる状態あること、が根本にあります。走るための準備できていなかったり、環境がしっかりしていないと「速く走っていいのか?」「速く走れるのか?」がクリアになりません。

タイヤ、車の部品、天気などにもコンディションはありますし、人間にもあります。

また、走っている際のコースのコンディションなどもあるので、全てが整わないと、安全に速くは走れません。速く走れても、車が壊れてしまったり、トラブルがあったりすると負けてしまいます。しかし、すべての環境がパーフェクトに整うということはまずありません。なので、できる限り最高の環境を整える準備をして、出来上がった環境や変化していく環境に順応して走ることが求められます。

ゆっくり走って勝つ

ベストな勝ち方は、スピード出さないことです。

スピードを抑えれば、安全だし、燃料も消費しないし、車への負担も少なくてすみます。

1位でゴールする為に、2位と10秒も離す必要はなくて、0.01秒でも前でゴールすれば優勝できます。なるべくゆっくり走って勝つことを考えるのが、レースの醍醐味だと僕は考えています。実際の競技だと、予選では1周の速さを競いますが、決勝戦になると競技のルールが変わります。決勝は予選とは違い、1周の速さではなく、レーストータルで、より速くゴールした人が勝つのです。

言い換えると、予選はタイムレースで、決勝はポジションレースです。レースで勝つには、いかに速く走るか、ではなく、いかに前でゴールするか、を考えればいいのです。

もちろん、より速く走ったほうが、ポジションは前に行きやすいのですが、それが全てではありません。予選を走る時のマインドは、決勝に進めるようもちろん「速く走ること」に意識を向けます。しかし予選と同じような走りでは、距離が長くなるほど車も疲弊しますし、もし車が途中で壊れてしまえば、当然ながら優勝することはできません。レースでは、途中でタイヤ交換があったり、長い距離のレースもあったり、周回遅れが出たり、詰まったときにどうやって抜くのか、どこでスピードを出すのかなどといったところの判断が結果を左右します。

10周のうち8周を素晴らしいタイムで走っていても、9周目でコースから飛び出したり、スピンしたりすると全てが台無しになってしまいます。なので、「レースをトータルで考え、参加者の中で一番にゴールする」、「トータルでかかる時間を短くするためにどうするか」ということを考えながら走っています。「最後に勝てればOK」というスタンスです。燃料を使う量を最小限に抑え、なるべくゆっくり走って勝つ。そこにレースの醍醐味があると思っています。

自分自身にチャレンジする

カーレースでは、自分自身との戦いが一番楽しいですね。

相手と競っているように見えますが、本当の敵は常に自分自身です。

車という道具を使うスポーツだからこそ、余計にもの(車)の差も出ますが、そのものをいかに上手に扱えるか、状況に落ち着いて対処できるかが腕の見せどころです。なので、毎秒自分自身や車との対話を重ねながら、レースに挑まなくてはなりません。なぜなら、車は瞬間での状態が常に変化していくからです。

タイヤの重さや、グリップ力が変わりますし、燃料がたくさん入っていて、車が重たい時と、軽い時では同じ操作をしても出る結果が変わってします。前と全く同じ状況は二度と起こりません。そこがレースの面白いところですね。常に車の状況が変わっていく中で、その瞬間でより良い選択をし、いかに良い走りができるか、ということを自分にチャレンジできます。このように、常に変わっていく状況下で最高の走りをするというところに焦点を置くと、相手うんぬんではなく、「いつ、どこで、どのような判断をするか」といった、自分の行為や判断に目を向けざるを得なくなってきます。

なので、常に自分と向き合い、チャレンジすることが必要になってきますし、そこで自分を超えていく瞬間が何よりの喜びです。

終始、レースの魅力や本質についてたっぷりと語っていた澤選手。中でも、「速度」が一番重要な要素ではない、という考え方は興味深く新鮮なものでした。次回の後編では、澤選手が考える、レースと仕事の共通点や、現在の活動などについて語っていただいています。

後編に続く。

アマチュアにいちばん近い「プロ」である レーシングドライバー澤圭太さんインタビュー後編 – connect (cws.co.jp)

インタビュー・構成・文=佐藤靖晟

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