ルマン24で走りたい 若手レーシングドライバー井上雅貴

若者の車離れが騒がれる昨今、カーレースの世界で頭角を表している若きレーシングドライバーがいます。スーパー耐久のシリーズで活躍する25歳の井上雅貴選手です。
井上選手は4歳から車の世界にのめり込み、現在までカーレースの世界で戦っています。
今回は、そんな若きレーサーの井上選手の特集です。
彼がレースに興味を持ったきっかけ、彼のレースに対する考え方をなどを伺ってきました。

<プロフィール>
井上雅貴。東京都出身。1999年に4歳でレーシングカートを始め、ローカルレースで数々の優勝、シリーズチャンピオンを獲得し、2005年には全国大会に出場。15歳でフォーミュラカー登竜門であるFJ1600に乗り始め、2015年20歳でSuper FJ ツインリンクもてぎシリーズに参戦。2017年~2019年までは、ドライバーとしての速さなどを評価され、浅野レーシングサービス「WedsSport 86」のBドライバーとしてスーパー耐久シリーズにフル参戦した。また、レーシングドライバーの傍ら、2017年よりレーシングドライバー澤圭太が主宰を務める「ワンスマ」に所属し、アマチュアドライバーにサーキットを走る楽しさや面白さを提案する。

日本で唯一の耐久レースに参戦

-ご自身の活動内容をお聞かせください-

私は主にレーシングドライバーとして活動しています。今年からは、日本の中でも唯一の耐久レースである「スーパー耐久」というシリーズに参戦しています。参戦のカテゴリーは、トヨタ86という車両を扱ったクラスです。カーナンバー18番、18号車のホイルメーカーがメインスポンサーについている「ウエットスポーツ86」という車名で登録しています。またコート外では、「ワンスマ」というドライビングレッスンのイベント事業会社でも活動をさせていただいています。澤圭太さんというレース界のスター選手の方が行っている事業なのですが、そこでは、サーキット走を趣味としたアマチュアの方々のサポートや、企画の運営などもせせていただいています。

「競う」ことが好きでレースの世界へ

-現代の若者は、「車離れ」をしていると耳にしますが、井上さんはどのようなきっかけで車の世界に入っていったのでしょうか?-

私がレースの世界に入ったきっかけは、父親がかなりのレースが好きだったことが関係しています。私が3歳のときに、父親がレース観戦のために富士スピードウェイまで連れて行ってくれたんです。今では、「スーパーGT」という国内の最高峰のレースなのですが、当時はJGTCという名前で行われていました。その時の会場に、たまたまキッズカート体験のイベントがあったんです。そのイベント案内を見た瞬間、無性に車に乗りたくなったのを覚えています。
その場で父親に頼んでイベントに参加させてもらいました。それが一番初めにカートに乗った瞬間でしたね。そしてその後、私が4歳になった時に本格的なカートレースを始めることになりました。

私自身、車自体も好きなのですが、どちらというと競うことが好きなんです。
競うことに楽しみを覚え、カートの運転を始めました。その時から既に、プロのレーシングドライバーになりたいという思いがあり、現在も競技を続けています。意外かもしれませんが、私の2歳上くらいからの世代の方は、4歳とか5歳の時にはカートを始めている選手が多いんです。同じ学校や周りで、カートを一緒にできる友達はなかなかいなかったのですが、カート場に行くと、自分と同世代の子供たちが一番多かったですね。当時を振り返ると、たまたま運良く彼らの中に混じることができたのが、カートを続けるきっかけになったと思います。

頑張らずに走る

ご自身がレース中に意識していること、大切にしていることはなんでしょう?-

レース中意識しているのは、瞬間での感情や状況に惑わされず、レース全体で結果を出すように考えることです。僕が参戦しているのは耐久レースなので、がむしゃらに走ってしまうと、車が壊れてしまったり、タイヤが減ってしまったりしていい結果に結びつきません。
なるべくレースやコース全体を見ながら、ライバルチームがどこをどのように走っているのかなどを観察しながら判断をしていきます。ただ単に「自分が早く走る」、ということだけを考えるのではいい結果は出ません。勝つためには、細かいところまで全体を俯瞰して見ながら判断し、車をより良い状態で次のドライバーに託すことが必要になってくるのです。

レースには予選と決勝があるのですが、予選はタイムアタックです。しかし、「速く走ること」は意識しつつも、無理はしないように心がけています。しかし、「言うは易し、行うは難し」なのです。僕もいざハンドルを握ってみると、タイムを意識して頑張りすぎてしまう傾向があります。なので、レース中は何度も「冷静になれ」と自分に言い聞かせて走ります。
速く走らなければいけない予選では特に、頑張ることよりも、スムーズに走ることを意識してレースに挑んでいます。

レースは自分の日常であり、勝負の場所

ご自身が抱いている、レースについての想いをお聞かせください-

意外かもしれませんが、レースというスポーツについて深く考えたことはないんです。
もちろん車は好きですし、レースも好きです。しかし私が小さい頃から、レースは自分の生活の一部だったので、特別な意識を持って走っている訳ではありません。
しかし、私自身が走る「レース」と、「ワンスマ」のようなイベントで車に携わる行為はまったくの別物です。私にとってのレースは、自分の生活の一部であると同時に、勝負をしにいく場所でもあります。レースで走るからには、優勝したいですし、一番速く走りたいです。
しかし、「ワンスマ」のようなイベント活動では、私がサポート側に回ることがほとんどです。イベント中には、私がしてきた経験をできるだけ多くの方々に伝えながら、サーキットの楽しみ方や、車の正しい乗り方などを詳しく伝えられるように意識していますね。
どちらも同じように車と関わっていますが、役割や関わり方が全く違うんです。役割が変わるだけで、同じスポーツでも見え方が全く違うのがとても面白いですね。「同じスポーツを別の視点から見る」という行為は常に新たな発見があり、どちらにも活かせる学びがあります。

信頼に値する人物になる

今後の展望や目標を教えてください-

目標は、フランスで開催されるルマン24に出場することです。ルマン24は、耐久レースで唯一参加できる大規模な世界選手権です。そのルマン24では、世界各国から優秀なドライバーが集まります。そこで、世界トップレベルの選手と勝負したいですね。
レーシングドライバーであるからには、大舞台を目指したいという強い思いを持っています。また、「ワンスマ」でも一緒に働かせていただいている澤圭太選手は、世界選手権でも何度も表彰台に登った経験があり、偉大な先輩です。幸いにも私は、彼と日々を過ごすことができているので、彼から多くを学びつつ、ルマン24で走れるようになりたいです。

なのでまずは、澤選手が目標としている「ルマン24」という大会に自身のチームで出る際、井上(自分)も確実にルマンを走る、というように周りから認識されるドライバーになりたいですね。そのためには、澤選手に「井上をチームに入れるのは当然」と考えてもらえるようなドライバーにならなくてはいけません。そのために、今のレース活動で結果を出しながら、日々の仕事でも信頼に値する人物になれるよう取り組んでいきます。そして、沢山のレースに参戦できるよう、自らの力でもこれから先の道を切り開いていきたいです。

井上選手、ありがとうございました。
connect編集部は、ルマン24に出場するという野望を持つ井上選手を、陰ながら応援させていただきます。

取材・文:佐藤 靖晟

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この記事を書いた人

Sato Nobuaki

1996年、神奈川県生まれ。高校2年の夏にブラジルを訪れたことをきっかけに、海外行きを決意。その後サッカープレーヤーとしてイタリアとスペインに渡り2シーズン半プレー。現在は、通訳業や言語学習教師、取材・執筆活動を行う。