「日本に必要なのは、大舞台に慣れること」日本在住の元セリエA選手プレーヤー マヌエル・ベッレーリからのメッセージ

東京に、かつてセリエAで活躍したイタリア人が在住している。その名も、マヌエル・ベッレーリ氏。現役時代には、エンポリやウディネーゼ、ラツィオ、アタランタなどの名門クラブでプレーし、ヨーロッパ・チャンピオンズリーグでプレーした経験も持つ。現在の彼は、ACミランアカデミー東京テクニカルディレクターを務め、日本の子どもたちにサッカーの指導をしている。今回はそんなマヌエル・ベッレーリ氏に、トップ選手の共通点、日本サッカーについて、サッカーをする上での日本人の強み、外国で結果を出すために必要なことなどを伺ってきた。プレーヤーはもちろん、指導者やサッカー関係者にとって必見のインタビューとなっている。

<プロフィール>
マヌエル・ベッレーリ。イタリア出身の元サッカー選手。ACミランアカデミー東京テクニカルディレクター。現役時代のポジションは右サイドバック。現役時代は、エンポリやウディネーゼ、ラツィオ、アタランタなどの名門クラブでプレーした。現職では、ACミランアカデミー東京でテクニカルディレクターを務め、日本の子どもたちに自身の経験を伝えている。

チャンスを逃さないトッププレーヤー

Photo by Manuel Belleri

-まず初めに、マヌエルさんはセリエAでプレーされていましたよね。デルピエロやトッティ、ロナウド、イブラヒモビッチなどのメンバーと対戦されたと思うのですが、世界のトップレベルの選手たちの共通点はなんでしょう?-

技術レベルの高さは言うまでもありませんが、世界トップレベルの選手たちは「常に正しい決断ができる」という力を持っていました。彼らがプレー中に決断することの全てが完璧なチョイスでしたね。そこが世界のトップオブザトップと、普通の選手を分けるものだとセリエAでプレーして感じました。イブラヒモビッチ、デルピエロ、シェフチェンコ、ロナウドなどの選手は、試合中に1度でもチャンスが訪れたら、そのチャンスを90%の確率でものにします。正しい瞬間に正しいな選択を選び、それを簡単に実行してしまうのです。試合中に何か重要な決断をする時でさえ、彼らにとってはミスをすることの方が難しいように見えました。

もう一つは、ゴールや、アシストできるチャンスが来たときに、ミスをしないことです。あなたがセリエAでプレーしているとして、試合中にディフェンスラインでミスをしてしまったとしましょう。その場合、相手選手は90%の確率で簡単に1つのミスからゴールを決めてしまいます。セリエB(イタリア2部リーグ)では50%、セリエC(イタリア3部リーグ)では30%くらいの確率でミスがゴールにつながります。セリエCだと、たとえディフェンスラインでミスをしてしまっても簡単にゴールに結びつかないこともありますが、セリエAでは1回のミスで、相手選手から簡単にゴールを奪われてしまいます。

ヨーロッパに近づいている日本サッカー。しかし、まだ差がるのも事実

マヌエルさんは世界のトップレベルでプレーされてましたよね。世界トップを経験された選手として、日本のサッカーをどう見ていますか?

現在の日本は、レベルの高いサッカーを表現できていると思いますし、ヨーロッパのサッカーととても似ているように映ります。積極的に相手にプレッシャーをかけていくスタイルのチームが多く、ボールに対するアグレッシブさも兼ね備えていますね。少し前はフェルナンド・トーレス、今はイニエスタなどの経験のある選手がリーグを面白いものにしていますし、ヨーロッパのエッセンスを日本サッカーに取り込んでいると感じます。

10年前と比べると、確実に日本サッカーのレベルは上がっていますし、ヨーロッパサッカーのスタイルに似ていると思います。しかしそれと同時に、まだヨーロッパのレベルにはたどり着けていないと感じます。次のステップに辿り着くためには、国際的な舞台での経験が必要です。

ヨーロッパでは、チャンピオンズリーグや、その他にも重要な国際大会が行われます。そのような場所でプレーすることによって選手やチームのレベルが高められるのです。今よりも選手のレベルアップや経験を実りあるものにするためには、選手個人や、クラブ単位でも重要な国際大会に出場したり、そこで勝つ経験が求められていきます。

日本に必要なのは、大舞台に慣れること

Photo by Manuel Belleri

-日本が国際的な大会で優勝するためには何が必要でしょうか? –

日本に必要なのは、大舞台に慣れることです。国際的な大会で優勝するためには、理論では説明しきれないメカニズムが働きます。不安やプレッシャーなどのさまざまな感情や、外部からの声など普段と違うことが自分たちを取り巻きます。それらに慣れ、うまくコントロールできるかが鍵となってきます。上手い選手を揃えるだけでは、良い結果は出ません。重要な大会で優勝するためには、重要な試合や大舞台でプレーすることに慣れている選手が必要です。カカやインザーギ、ピルロなどの選手が在籍していたACミランの黄金期を思い出してください。数多くの大会やリーグで優勝していましたね。その時にスタメンでプレーしていた選手のほとんどが、すでに他のチームでもリーグ戦や国内カップ戦、そのほかの大会で優勝を経験したことのある選手でした。大舞台で勝つことを経験している選手にはとても価値があります。ですので、日本国内でも重要な試合をいくつも経験していたり、優勝経験がある選手を代表チームに連れてくることはとても意義があると思います。

ワールドカップやチャンピオンズリーグなどの国際的な大舞台では、試合の前からかなり多くのエネルギーを消費します。不安や緊張、負けられないプレッシャー、勝ちたい気持ちが一気に押し寄せてくるのです。しかし大舞台で戦うことに慣れている選手は、さまざまな感情を上手くコントロールすることに長けており、大舞台でも自分をコントロールできます。
そういった選手がチームに多ければ多いほど、大舞台でも結果を出せるようになります。

ザッケローニ氏が日本代表監督をしていた時に、日本代表はアジアカップで優勝しましたね。このような国際舞台で経験を積むことは、とても大きな意味を持っています。しかし、その経験をクラブ単位でもすることが重要です。緊張感や、プレッシャーがかなり高く、感情的になる試合を経験することで、大舞台での振る舞いや、自己コントロール能力が身に付きます。勝つために、その経験がある選手をチームに招くことが重要な意味を持ちます。

日本人のテクニックは世界レベル、足りない戦術を学んでいけば大きく成長できる

Photo by Manuel Belleri

サッカーをする上での日本人の強み、はどこにあるとマヌエルさんは考えますか?

日本人が持っているメンタリティーと、ボールを扱うテクニックだと思います。勤勉に仕事に打ち込める日本人のメンタリティーは、何をするにしても大きな強みです。常により良く改善しようとするところや、何かを頑張ってやり遂げようとする性質はとても重要だと思いますし、その性質は成長するために必要不可欠です。その勤勉な部分を、さらにサッカーの面でも出していくことができれば、技術的に劣っている選手でも大きな成長を遂げることができます。

そして、日本人選手のボールを扱う技術は素晴らしいです。Jリーグのクラブで、セリエAのクラブよりも技術面で優っているところがいくつもあります。日本の選手は、世界と比較してもかなり高いレベルのテクニックを持っていると思います。チェゼーナやインテルでプレーした長友選手は、決して体の大きな選手ではありませんでしたが、素晴らしい技術を持っていました。僕がチェゼーナと対戦した時、彼が試合中に上げていたクロスの精度が素晴らしいものだったのを覚えています。上げていたクロスは全て味方に合っていたし、クロスを上げるタイミングもバッチリでした。ボールを扱う技術に関しては、日本人選手はヨーロッパの選手と比べてもかなり高いレベルにあると思います。

しかし戦術面では、まだ改善の余地があると見ています。イタリア人監督にとって、イタリアにプレーしに来た長友選手や本田選手などの日本人選手の指導は簡単ではありませんでした。戦術を理解できている選手とできていない選手の差はディフェンス面で大きく現れます。攻撃的な選手のポジションが少しずれていたとしても、その影響はあまり大きく現れないこともありますが、ディフェンスの選手の場合は、一つのポジションミスがすぐに失点につながってしまいます。日本の選手のポジショニングミスは多く見られますが、戦術を学ぶためにはかなりの時間がかかります。

時間をかけてしっかりと、戦術学んでいかなければなりません。ここ日本にでは、戦術をあまり重要視していように見えますが、その代わりに日本人選手が持っているテクニックは素晴らしいです。あなたたち日本人が持っているテクニックと、まだ持っていない戦術のバランスを見つけることが、日本の最優先課題だと私は考えています。
日本人選手が戦術も身につけることができれば、日本サッカーは大きな成長を遂げることができると信じています。

海外で結果を出すために必要なこと

Photo by Manuel Belleri

ここ数年、日本人選手が海外のリーグでプレーすることが増えてきました。マヌエルさんがプレーしていたチームにも外国人選手は多くいたと思いますしし、相手チームで活躍する外国人も多く見てきたと思います。外国人を受け入れる立場のセリエAでプレーされた経験から、海外のリーグで活躍する選手になるためには何が大切だと思いますか?

コミュニケーション能力と、現地の言葉を早く習得しようとする姿勢だと思います。当たり前のことですが、セリエAのクラブでは基本的にイタリア語が使われます。ピッチ上での意思疎通を円滑にするために、イタリア語を学ぶ必要があることは明らかですが、イタリアに着いたばかりの選手にとってイタリア語を理解するために時間が必要です。そのような場合は、「コンセプトを理解すること」が重要になってきます。言語が分からないなりに、チームメイトが何を伝えたいのか、何を言っているのかをいち早く理解できるように努めなければなりません。ピッチ上では、コミュニケーションを素早く正確にとる能力が必要です。パスを受ける時や、パスを出す時、ポジショニングの修正に時間をかけている暇はありません。一瞬で味方選手とコミュニケーションを取り、理解し、実行する必要があります。その一連の流れを円滑に進めるために、現地の言葉を早く習得する取り組みが必要です。

私も日本で仕事をしていて、さらに日本語を上達させないといけないと感じています。伝えたいことを理解したり、コミュにニケーションを取るにはどうしても言葉が必要です。なので、海外リーグでプレーすることを考えている選手は、現地の言葉を理解できるよう、少しでも学んでおくとよいでしょう。

取材・文=佐藤 靖晟

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この記事を書いた人

Sato Nobuaki

Sato Nobuaki

1996年、神奈川県生まれ。高校2年の夏にブラジルを訪れたことをきっかけに、海外行きを決意。その後サッカープレーヤーとしてイタリアとスペインに渡り2シーズン半プレー。現在は、通訳業や言語学習教師、取材・執筆活動を行う。